「お酒に酔う」メカニズム

「お酒に酔う」ということがどういうことなのか考えたことはありますでしょうか。お酒に酔うという状態は、実は複雑で全ては解明されていません。その原因の候補として、アルコール(エタノール)それ自体とアルコールが分解されて生じるアセトアルデヒドの2つの物質が主な要因として挙げらています(それ以外にも複数想定されています)。

アルコールそのものの作用

アルコールの作用について。アルコールは他の食品と異なり、消化を受けることなく吸収されます。通常では飲んだ量の20%は胃から、残りは小腸上部から飲酒後1~2時間で吸収されます。アルコールは脳の各部位・細胞を抑制し、それらの細胞が抑制系に働くのか、促通系に働くのかのトータルで最終的な症状が決まってきます。ざっくり表現すると、アルコールは低濃度では興奮系の作用、高濃度では抑制系の作用を呈します。

アルコール血中濃度、症状、そのときの脳の状態をまとめてみました。
● 爽快期(血中アルコール濃度 20 ~ 50 mg/dL)
気分さわやか、活発な態度。
理性を保つ大脳新皮質の活動が低下し、抑制されていた大脳辺縁系(本能や感情を司る)の活動が活発になります。ご一緒すると楽しい状態です。
● ほろ酔い期(50 ~ 150)
気分が大きくなる、なれなれしい、集中力の欠如、心拍・呼吸数の上昇。
爽快期の状態が更に進行します。脳幹部(生命維持に必要な呼吸、嚥下、構語)・小脳(ふらつき)の機能は保たれます。一緒に飲むと少しウザいかもしれません。
● 酩酊期(150 ~ 300)  
構語障害、失調性歩行、複視、悪心・嘔吐、傾眠傾向、突拍子もない行動、反社会的行動。
大脳皮質機能全体は更に抑制され、小脳機能も抑制されます。脳幹機能は保たれますので、死に至ることはまれですが、少し心配です。
● 泥酔期(300 ~ 400)
歩行困難、言語支離滅裂、明らかな意識障害、粗い呼吸。
酩酊期の脳機能抑制に加え、海馬機能(短期記憶)も低下し、ブラックアウトの状態(一見それなりの行動が可能ですが、翌日にはその時の記憶がない状態)になります。倒れると寝返りがうてなくて、筋肉が横紋筋融解症に至ることもあります。
● 昏睡期(400 ~ 500)
昏睡、尿便失禁、呼吸筋麻痺による死。
泥酔期の脳機能抑制に加え、脳幹部(延髄などの呼吸中枢を含む)機能が抑制されます。救急搬送が必要な状態と思われます。

アセトアルデヒドの作用

もう一つの原因物質と想定されるアセトアルデヒドの作用について。体内に吸収されたアルコールは、主にアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに代謝されます。アセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸に代謝されます。

アセトアルデヒドの分解能力は体質(遺伝子多型)によって大きく異なり、アセトアルデヒド血中濃度が高くなりやすい人はこの高い濃度が「酔い」の現象に強く影響します。アセトアルデヒドは強い血管拡張作用を持ち、顔面紅潮、吐き気、更には二日酔いを生じる強力な作用を持ちます。

「酔い」と「二日酔い」

普通の「酔い」と「二日酔い」は同じメカニズムなのでしょうか。「二日酔い」の機序もアルコールの過量摂取が原因であることは明白ですが、その原因についての詳細は不明です。

有力な説として、アルコール分解による脱水、軽度のアルコール離脱症状、ホルモン異常や低血糖、体の酸塩基平衡のアンバランス、炎症反応の亢進、睡眠や生体リズムの障害、アセトアルデヒドの蓄積、酒に含まれるメタノールなどの不純物による影響などが挙げられます。これらの複数因子が絡み合って二日酔いになると予測されています。

不純物が少ない蒸留酒(ウイスキー、焼酎)の方が二日酔いになりにくい、との説もありますが、非蒸留酒(日本酒、ワイン)の方がビタミンなどの栄養価が高く健康的で酔いにくいという要素のあるのではないかと個人的には考えています。更には、日本酒の醸造アルコールが悪い、など諸説ありますが、結局は総アルコール摂取量が最も大きな二日酔い因子ではないかと推測しています。

新型コロナウイルス感染の影響で宴会の回数は激減したと思いますが、たまに飲んだ時、楽しいひと時のちょっとした話題にいかがでしょうか。

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