飛行機では酔いやすい ~メカニズムの考察~

海外旅行に行くときに、到着時間が朝の場合は“飛行機の中で眠れるように”、到着時間が夜の場合は“着いても何かをするわけではないので”とアルコールを飲むことがあります。仕事の場合はともかく、旅行の場合は一杯(もしくはそれ以上)飲む方が多いと思います。そんなとき、いつも以上に酔っぱらうように感じませんか?

まず、お酒に酔うという状態の機序ですが、実は複雑で全ては解明されていません。その原因物質候補として、アルコール(エタノール)それ自体とアルコールが分解されて生じるアセトアルデヒドが挙げられます。機序の検討については、こちら(「お酒に酔う」メカニズム)をご参照ください。

飛行機の中でのお酒に酔いやすいのは、多くの方が実感していますが、その機序は厳密には解明されていません。以下のように仮説がいくつかあります。

①「空酔い」との合わせ技

曲がり角の多い道を車に乗っていると車酔いになります。視覚、前庭覚、体性感覚の3つの感覚入力に乖離や認知座標系・空間識の不安定化により生じます。飛行機でも同様の現象が生じ「空酔い」と言います。これは内耳にある平衡感覚を司る三半規管が刺激されることにより生じます。ある友人の話では、揺れる飛行機で酔うことがあり、そんな中で飲酒をするとかなり酔うとの話でした。空酔いと酒酔いの合わせ技かもしれません。

似たような現象として、酔っ払いがタクシーの中に限って嘔吐する印象がありますが、これは車酔いと酒酔いの相乗効果なのでしょう。空酔いと酒酔いの関連については、これを証明する研究も、私自身の実感もありませんが、車酔いと同様に合わせ技により酔いが回りやすいのかもしれません。

② 血中「酸素濃度」の低下

飛行中の機内の気圧は0.80気圧前後に調整されており、酸素の分圧も地上の80%前後に低下します。そのため体内の酸素飽和濃度(SpO2)は普段は95-99%であるのが、92-93%に低下します。類似する環境 = 高地(海抜3000m)における研究では、アルコール摂取により「低下した酸素飽和濃度が更に低下する」ことが判明しています。

高地で飲酒すると「高山病による酔い」と「アルコールによる酔い」が重なりひどいめまいが生じるということは登山家の中では周知の事実のようです。飛行機における低酸素とアルコールの相乗効果により酔いがまわりやすいのかもしれません。

③ 飲む量が増える

仕事で飛行機に乗る時よりも、旅行で飛行機に乗る時の方が飲酒する人が多いのではないでしょうか。楽しい旅行では報酬系のドパミンが多く分泌されます。ドパミンは食物やアルコールを摂取しようとする動機付けが増加します。つまり、飛行機・旅行によりドパミン分泌が増加し、ついつい飲酒量が増えてしまう可能性があります。この仮説には、私自身かなりの実経験があります。

これとは別に飛行機内の湿度は、外気の湿度が極めて低いこと、および結露を抑えるために10~20%に保たれます(ちなみに温度は22~26度)。必然的に喉が渇き、水分摂取量が増えます。そこに旅先調達のビールなどが目に入ると、どうあらがっても頼んでしまうのが人間の性なのかもしれません。ちなみにアルコール摂取は、利尿作用とアルコール分解に水分を使用するので、かえって脱水を悪化させます。

飛行機に乗った際は、アルコール酔いが強く出現する可能性は高いと言えそうです。飛行機内での飲酒は、脱水には気を付けて、飲みすぎには(地上での飲酒よりもより)一層注意する必要がありそうです。

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