健康:身体に良い効果は?

お酒に含まれるエタノールとその分解物質であるアセトアルデヒドにはヒトにおいては発がん性があり、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、女性の乳がんの誘発因子になると言われています。しかしながら、少量の飲酒であればかえって健康には良いという説も多数報告されています。

アルコール摂取量と虚血性心疾患

下のグラフはオーストラリアからの有名な報告で、主に35歳以上の成人において、アルコール摂取量が0(なし)の場合よりも、少量飲酒者の方が長生きするというものです。この理由は虚血性心疾患が同じようなカーブを描くためとされています。

e-ヘルスネット(樋口進、厚生労働省)より

アルコールを全く摂取しない人は、持病のある方(アルコールとは関係なく虚血性心疾患になりうる)を含むという別の要素が存在することも指摘されてはいます。

良好な睡眠を誘導

睡眠は人生の約 3 分の 1 の時間を費やす重要な生活基盤であり,脳の休息,心身の修復・回復や翌日の活動に備えた体内環境の整備など、生活の質を維持・向上させるために必要不可欠なものです。「清酒酵母」が,睡眠の質を向上させる機能を示すことをわかっています。

清酒酵母(GSP6)が,アデノシン A2A受容体を直接活性化し、良好な睡眠を誘導します。清酒以外の食用酵母(パン酵母、ビール酵母)にはこの活性化効果はありません。マウスでの研究では、清酒酵母の投与によりレム睡眠時間には影響を与えず、ノンレム睡眠時間を有意に増加することが示されています。つまり、深睡眠誘導効果があると考えられます。清酒酵母はヒトにおいては、成長ホルモン増加作用も示唆されており、肌質改善効果も期待されています。

血圧降下作用

お酒を飲むと血圧が上がるイメージがありますが、これはつまみを食べることにより塩分摂取が増えるという要素が大きいからです。アルコールによる末梢神経障害の一環としての自律神経障害の関連も示唆されています。

日本酒自体には血圧を下げる効果があります。アンジオテンシン変換酵素(ACE)は血圧上昇を制御する酵素で、ACE阻害活性は血圧上昇を抑制する効果があります。酒粕およびその分解物にACE阻害活性が含まれ、実際にヒトにおいて血圧降下作用が証明されています。塩分控えめのつまみで、日本酒を飲めば血圧はかえって下がる傾向になると予測されます。

アンチエイジングと貧血改善作用

日本酒醸造で用いられる米麹にデフェリフェクリクシンが含まれますが、このペプチドには活性酸素を消去する抗酸化作用があることが判明しました。生活習慣病、老化、癌の予防効果があります(フリーラジカルスカベンジャーと同じ効果)。

デフェリフェクリクシンに3価の鉄が結合するとフェリクリシンというペプチドになります。ラットにおける研究ではこのフェリクリシンが鉄の吸収に効果的な働きを示し、高い貧血改善効果を有することが示されています。ただし、フェリクリシンは褐色の沈殿物となり酒質の劣化を招いてしまうために、お酒用の水には鉄分の含有量は 0.02 ppm(parts per million)以下という厳しい基準があります。「鉄をそれなりに含む食材」をつまみに、日本酒を併せて頂くと鉄欠乏状態改善の一助となる可能性がありそうです。

精神安定効果

香り成分が「”GABA受容体を刺激”して、抗不安作用をもたらすなどの効果」も報告されています。GABA受容体は脳神経細胞の活動性を調節する介在ニューロンですが、抑制性に働きます。

これとは別に吟醸酒に多く含まれる吟醸香がヒトの心と体にリラックス効果をもたらすことも証明されています。更には物忘れの抑制効果も報告されています。

大量に飲酒すると、上記の効果を上回るデメリットが生じるのは明らかで、健康のためには適量摂取が前提なのはもちろんです。日本酒は米と水のみから酵母の力を利用して醸造した醸造酒です(焼酎やウイスキーは、醸造酒を蒸留して作ったお酒)。上記の効果は日本酒のような醸造酒に主に認められます。日本酒の良い面にも少しだけ注目していただけると嬉しいです。

参考

物井則幸ら オレオサイエンス 201;19:291-297
秦洋二 Functional Food 2018;12:45-50
月桂冠研究所

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