アルコールと自律神経とGABA

脳の中には、脳神経細胞(ニューロン)がメインの細胞として存在し、その興奮性を調整するように小型の介在ニューロン(interneuron)が存在します。脳神経細胞に対して抑制的に働く介在ニューロンと促通的に働く介在ニューロンがあります。抑制的に働く介在ニューロン=GABA作動性介在ニューロンです。促通的に働くものにはグルタミン酸作動性介在ニューロンがあります。アルコールは、このGABA作動性抑制性介在ニューロンと類似の作用機序をもっています。

アルコールの作用

アルコールは神経系に対して、どのように作用するかについては、複数の作用機序が関与するために複雑です。少量のアルコールは血管を弛緩させて、末梢の血流を増加させます。アルコールが代謝されて生成されるアセトアルデヒドも血管を拡張させて、更には血圧を低下させるときもあります。

これとは別に脳の中でもアルコールは大きな働きをします。「お酒に酔う」メカニズムにも記載しましたが、アルコールが低濃度(100 mg/dL以下)であれば、脳全体として興奮性の作用、高濃度(200 mg/dL以上)では抑制性の作用が優位となります。

脳のそれぞれの部位によって、興奮する部位とおとなしくなる部位がありますので、そのどちらに強くGABA系抑制性介在ニューロンが強く作用するかによって症状が分かれてきます。つまり、脳の部位ごとに異なる働きがあります。簡単には前頭葉は理性、側頭葉は社会性など、そのそれぞれの部位をどの程度抑制するかという要素があります。

また、別の要素として神経伝達物質への影響もあります。アルコールは中脳辺縁系や側坐核における(興奮系の)ドパミン放出の増加をもたらします [Weiss, 1993]。神経伝達物質に関しては詳細には解明されていませんので、そのような要素が関連しているとのみご理解ください。

概要でまとめるとGABAは脳には一般的には抑制的に働きます。てんかんの患者さんの薬のいくつかはGABA作動系を増強させる薬剤で、その薬は大抵眠気を誘発するということからも理解できます。つまりアルコール血中濃度が上がっているときは、抑制作用が強くなるのですが、通常は飲酒して眠っている段階ではこの抑制作用がだんだんと減弱していきます。このときに目が覚めると”抑制が減弱している”のでドキドキしているときが多いです(心臓は末梢の自律神経なので直接的ではありませんが)。

自律神経とは

自律神経系には2つの系列があります。一つは交感神経系で興奮したときに活動性が高まります。もう一つは副交感神経系で、リラックスしたときに活動性が高まります。

交感神経系が強くなると、瞳孔が大きくなり、心拍数増加、血圧上昇、発汗増加、腸管の動き抑制、そして手が振るえ(武者震い)たりします。副交感神経系が強くなると、交感神経系とはほぼ逆で、心拍数減少、血圧低下、唾液分泌増加、腸管の動き促進します。

自宅で軽く飲酒するようなレベルでアルコール血中濃度が(200 mg/dL以内のレベルで)上昇しているときは、GABAとは異なる機序で興奮系が高まりますので、心拍数が上がりますが、アセトアルデヒドの影響で血管が拡張するために血圧は下がり傾向になります。血中濃度が高くなり過ぎると抑制系が強くなり副交感神経が優位となり、よだれを垂らして、更に血圧が下がります。

交感神経と副交感神経はシーソーのような関係で、バランスをとっています。また、時間とともに変動し、あるときは交感神経優位でその後は副交感神経が優位になったりします。中枢神経系とバランスをとることもあり、活動性の評価は単純ではありません。

睡眠との関係

就寝前にアルコールを飲むと寝つきは良くなりますが、深い睡眠になりにくいといわれています。実際に、睡眠の後半部分が障害されるという研究結果[Landolt, 1996]もあります。

この理由は、上記のように興奮系の交感神経系が優位になるからとの考え方もありますが、それが理由ならば、睡眠の前半に障害が強くなりそうです。

脳波の観察では、覚醒時は10Hz前後の脳波が、深い眠りになると2-5Hzといった徐波になります。GABA刺激系の薬剤は脳波を20Hzといった速波することが知られています。アルコールは脳を深い眠りの状態に至ることを妨害する作用を持っているようです。

上記は、私の個人的な推論も多く含まております。引用の際はご注意ください。

文献

Weiss F, et al. Oral alcohol self-administration stimulates dopamine release in the rat nucleus accumbens: genetic and motivational determinants. J Pharmacol Exp Ther 267; 250-258, 1993.
Landolt HP, et al. Late-afternoon ethanol intake affects nocturnal sleep and the sleep EEG in middle-aged men. J Clin Psychopharmacol 16; 428-436, 1996.

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