醸造アルコール導入の歴史
「純米酒」以外の日本酒では、通常、原材料名に、米、米麹の他に「醸造アルコール」が記載されています。お酒を搾った後には入れることはできませんが、「副原料」として醪(もろみ)に添加することは認められています。
醸造アルコールは、主として、サトウキビから砂糖を取ったあとの残液である廃糖蜜が原料で、安価です。サトウキビの糖蜜に酵母を加えて発酵→蒸留を繰り返し、エチルアルコール(=エタノール=醸造アルコール)となり使用されています。蒸留酒なので、濃度95%以上のほぼ純粋なアルコールです。
サトウキビ由来の香りや味はほとんどなく、クリアな味わいをしています。甲類焼酎は、アルコール度数が36度未満に調整された醸造アルコールで、缶チューハイなどのアルコールも同じです。スッキリしたキレの良い味わいになります。醸造アルコールの添加が悪酔いの原因とする論調もありますが、甲類焼酎のクリアな味わいが飲酒量を多くしてしまうのかもしれません。無味無臭に近いウォッカのカクテルが、とても飲みやすく、酔いやすいことと同じかもしれません。ウォッカベースのサワー類も飲み口は爽やかです。
醸造アルコール添加の歴史は古く、江戸時代初期の1600年代に書かれた酒造技術書には、「日本酒に焼酎を足すと味わいがしまり、腐りにくくなる」という記述があります。これは、後々「柱焼酎仕込み」と呼ばれる製法で、江戸時代初期には、すでに日本酒に醸造アルコールを加えた醸造酒の原型ができていたようです。
戦中・戦後にお酒が不足した際に、日本酒に醸造アルコールを添加して、量を増やして国民の日本酒需要に対応した歴史があります。この頃に作られた三倍増醸酒とは米から生成されるアルコールの約2倍の醸造アルコール、更に糖類、調味料、酸味料を加えて、結果的に3倍に水増しされて造られた日本酒のことです。
最近では、吟醸の香りを日本酒に残りやすくするようにあえて、日本酒に添加することもあります。醪にアルコールを添加することで、アルコールに酵母が溶けて、酵母の香りが日本酒に移りやすくなっているのです。
最後に品質管理が楽になるというメリットがあるようです。お酒は品質管理をしっかりしないと、雑菌が増えたりカビが繁殖したりする恐れがあります。こういった腐敗を防ぐ目的でアルコールが添加されることもあります。長期間の保存も可能になります。
今回は、日本酒をいただくときによく話題になる醸造アルコールについて、調べてみました。酒宴の小話に使っていただけると嬉しいです!
参考
上原浩. 純米酒を極める. 光文社新書 2002年